みゆき通りの老舗文具専門店「銀座文具」閉店-60年の歴史に幕

歌舞伎座にほど近いみゆき通り沿いに居を構え60年。また1つ老舗店の歴史に幕が下ろされた

歌舞伎座にほど近いみゆき通り沿いに居を構え60年。また1つ老舗店の歴史に幕が下ろされた

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 戦後の混乱を背景に銀座で誕生した老舗文具店「銀座文具」(中央区銀座5)が2月20日、60年の歴史に幕を閉じた。

関連画像(1958年に開催された「第3回アジア競技大会」の記念鉛筆)

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 高まる文具メーカーのインターネット通販の拡大により、「専門家がいなくてもできる商売になってきた」と話す同社若村文夫社長。「質」より「価格」が重視され、メーカー同士の価格競争から利益率が下がり、「本業としては厳しく片手間の商売でしか生き残れなくなった」とのれんを下ろす苦渋の選択をした表情は厳しい。

 同社は若村社長の父、順之輔氏が1949(昭和24)年に創業。横須賀出身の順之輔氏は、アメリカ進駐軍の払い下げ物資のゴムホースと布と練り歯磨きを「創意工夫」しロウソク作りに着手、停電が多い時世に重宝され、協力し合った友人3人で約5,000万円という高額な報酬を手に入れた。その後、「堅実な仕事をしよう」と「文具」に目を付け、木挽(こびき)町(現在の東銀座)のみゆき通り沿いに同社を設立した。

 1958(昭和33)年、東京オリンピック招致活動の最中に東京で開催された「第3回アジア競技大会」の記念鉛筆を作るなど精力的に活動し、日本航空など大手企業との取り引きにも恵まれた。販売店舗のほか外商部も設け、創業10年後には自社ビルが建つほどまでに成長。1969(昭和44)年には事務用品のセールスカー「ギンブン号」を丸の内周辺に走らせポケベルで呼ぶと文具をその場でそろえてくれる利便性に話題が集まるなど、時代の先を見すえた事業を展開してきた。

 若村社長は「オリジナリティーあふれる遺伝子は(順之輔氏より)しっかりと受け継いだ」という。1997年には企業内に文房具専門の無人キヨスクを設置し、POS端末で使用状況を把握。多い時には設置場所が60カ所にまで増えた。翌年にはアメリカのサーバーメーカーの協力の下、BtoBのインターネット通販「iDeL Net」(アイデルネット)を開始。「いわゆる通販の先駆け」と苦笑いする若村社長は「インターネットの普及もままならないころで、導入が早すぎた」と振り返る。

 その後、文具メーカーのインターネット通販の拡大により店頭売りが大幅に減少したのを受け、2004年には高級志向や女性重視を掲げ「良い文房具を扱いたい」と書斎づくりのサポートなどを行う「銀座書斎倶楽部」を立ち上げた。地域活性化にもつながるとLPレコード鑑賞会や書道教室、ギャラリーとしてのレンタル空間「文化サロンスペース」も始めたほか、書斎に必要は書架や机などの販売も手がけた。

 年商は約10億円。社員17人のうち7割に再就職先をあっせんした。「銀座文具としての役目は終えた。すべてをきちんと片付けたい」と若村さん。「一度、銀座を離れ違う場所から再出発する。銀座で商売をすることが恵まれているということを自分自身再認識したい」とも。今後は未定だが、「銀座書斎倶楽部」のコンセプトをベースに「本当に良いもの」にこだわり伝統工芸品の取り扱いも視野に入れる。

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