千代田区立日比谷図書文化館(千代田区日比谷公園)では9月29日から、現在12代目を数える歌舞伎役者の名跡「市川團十郎」にフォーカスし、衣装や小道具などを取りそろえた特別展「市川團十郎 荒事の世界」が開催されている。
市川宗家家紋「三升」を両袖にあしらった、30キロの「暫」鎌倉権五郎景政の衣装
「市川團十郎」の歴史は、初代團十郎が歌舞伎の代表的な演出法の一つである「荒事(あらごと)」を創始したことから始まる。荒々しく豪快な演技が特徴で、元禄時代以降江戸を中心に発展。以降團十郎は市川一門の名跡(みょうせき)として代々襲名され、7代目團十郎は1832(天保3)年、代々の團十郎が得意にしてきた荒事芸を集約し、「歌舞伎十八番」を制定した。
「歌舞伎十八番」に数えられるのは、主人公が「しばらく、しばらく」と言いながら罪のない男女を悪人から救い出す「暫(しばらく)」、関所を渡ろうとする源義経、武蔵坊弁慶と、関守・富樫左衛門との攻防戦を描いた「勧進帳(かんじんちょう)」、荒事の中にも和事の柔らかさを表現した「助六(すけろく)」など18作品。英雄役の活躍を際立たせる作品が多く、「睨み(にらみ)」「見得(みえ)」など荒事の要素が多く盛り込まれる。
同展では歴代の團十郎の姿や業績を、役者絵、映像、写真、上演台本などで紹介。合わせて歌舞伎十八番の中から、團十郎が実際に着用した衣装、小道具なども展示する。
衣装展示は「松竹衣装」の協力を得て実現。「暫」では、鎌倉権五郎景政の「松葉色鶴菱縁縫黒袖口綿入り半着付け(まつばいろつるびしふちぬいくろそでくちわたいりはんぎつけ)/柿色大紋(かきいろだいもん)」を紹介。両袖の内側にフレームを仕込み、市川宗家の家紋「三升(みます)」を大きくあしらった大掛かりな衣装で、「衣装だけでも30キロ以上、道具を入れたら60キロ近くの重量」と、同館企画広報担当の稲垣久美子さん。
「勧進帳」からは、弁慶と冨樫の衣装を並べる。新橋演舞場では現在、市川團十郎さんと松本幸四郎さんが弁慶と冨樫を「昼夜役替わり」で演じる十月大歌舞伎が公演中。会場では同公演が終了した11月から、同舞台で実際に2人が使用した右手差(めて、=右に差す腰刀)も展示するという。
衣装は傷んだ場合は新調するが、劣化をなるべく防ぐために公演が終わるたびに反物状に解いて保管され、公演毎に仕立て直されるという。「團十郎さんの汗が染み込んだ貴重な衣装。市川家の家紋やエビなど複数の衣装に盛り込まれるモチーフもたくさんある。歌舞伎を知らなくても衣装の華やかさを楽しんで、これをきっかけに歌舞伎の世界に興味を持ってもらえれば」(稲垣さん)
開催時間は10時~20時(土曜は19時まで、日曜・祝日は17時まで)。入場料は一般300円ほか。11月28日まで。