歌舞伎座前の名物・甘栗露店「天津堂」、惜しまれながら46年の歴史に幕

お客からの投げかけに笑顔を見せる西井一志さん。惜しまれながら甘栗露店「天津堂」を閉店する

お客からの投げかけに笑顔を見せる西井一志さん。惜しまれながら甘栗露店「天津堂」を閉店する

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 建て替えのため改修工事が始まる歌舞伎座(中央区銀座4)前で46年前から甘栗を販売する露店「天津堂」が今月30日、惜しまれながら閉店を迎える。

関連画像(千秋楽を迎えた歌舞伎座)

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 1964(昭和39)年に知人から店を譲り受けほそぼそと販売を続けてきた西井一志さんは、1930(昭和5)年生まれの現在79歳。千秋楽を迎えた28日、ハンチング帽にエプロン姿でパイプいすに腰をかけ、「疲れて滑舌が悪くてごめんね」と疲労感をにじませた。連日のテレビ取材や1年以上前から始まったさよなら公演に「ほとほと疲れたよ」と冗談交じりに答える。

 「数年前から取り壊しの話は聞いていた。歌舞伎座は空気みたいな存在で当初はさみしいと思っていたが、そろそろやめようと思っていたので閉店に迷いはない」とし、「3年後には自分の体がどうなっているか分からない。今の歌舞伎座だから露店が似合うわけで、新しくなったビルには絶対似合わない」と道具を処分し再開することがないことも明らかにした。

 東大在学中に演劇を始めた西井さんは、卒業後もアルバイトをしながら劇団に所属。この日も名物の焼き栗を求めてできた列に、西井さんの「ファン」という江戸川区在住の女性3人組が並んだ。「西井さんの演技は本当にかっこいい。劇団ひとりが有名になる前に一緒に芝居をしていたこともあるほど有名なんだから」と声を弾ませ、閉店については「とても残念」と名残を惜しんだ。

 店頭で販売する焼きたての栗は小粒でホクホクした柔らかさが人気を呼んでいた。歌舞伎座へ足を運ぶ度に購入していたという観劇客も多く、取材中にも西井さんへ声をかけたりサインを求めたりする通行人や常連などの姿が続く。「こないだ勘三郎さんが来て『お疲れさまでした』と握手をしてくれた。野球で例えると彼らは大リーガー選手で、自分は草野球選手。わたしは迷いのある『迷優(めいゆう)』です」と笑いも忘れない。

 46年間、晴海通りを見つめてきた西井さんは銀座の街の高層ビル化や観劇客のファッションスタイルの変遷を挙げ、「昔は歌舞伎座に来るということは1年に1度の貴重な事。着物で髪をゆわいた人やおしゃれをしてる人ばかり。時代とともにそんな人は少なくなった」という。「感慨深いですか?とよく聞かれるけど、ここ最近ずっと忙しかったのでようやくほっとできる」と最後に笑みを浮かべた。

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