創業95周年を迎えた銀座・花椿通りの「月光荘画材店」(中央区銀座8、TEL 03-3572-5605)で8月8日、年に1度の公募展「月光荘ムーンライト展」が始まる。
1階の販売スペースには、スケッチブックやバッグがぎっしり並ぶ
月光荘は1917(大正6)年、橋本兵蔵さんが新宿で創業。橋本さんが「20歳位だった」当時は「アートといえばフランスだった」時代といい、画家たちは絵の具を船便で輸入していた。もともと「色彩感覚が強かった」橋本さんは、苦労する画家たちに向けて「画材で困らないように」との思いで同店を立ち上げ、絵の具やパレットなどの画材を自分たちで開発していった。
橋本さんは当時、画家や役者や歌手や文筆家などが集まるサロンに通っていた。店名はサロンで親交のあった与謝野鉄幹・晶子夫妻が命名。月光荘商品のトレードマークになっている「ホルン」は、「ヨーロッパの貴族は、狩りではホルンの音色で状況を伝え合った」ことから、「月光荘が友を呼び、多くの人が集まる場所になれば」との思いを込めた。
1940(昭和15)年には世界の標準色ルリの青「コバルトブルー」の技法を発見し、純国産第1号の絵の具を誕生させた。その後、新色「コバルト・バイオレット・ピンク(月光荘ピンク)」を発明。1971(昭和46)年の世界油絵具コンクールで1位を受賞し、当時の仏・ルモンド紙はこの受賞を、「フランス以外の国で生まれた奇跡」と報じたという。
銀座へは第二次世界大戦後に移転。以降、施設の老朽化などを理由に銀座7丁目~6丁目かいわいを点々とし、現在の場所へ移転したのは2008年5月。レンガ造りのファサードが特徴で、手前に地下1階への入り口が、作品を飾るショーウインドーを横切ると1階入り口がある。店主は橋本さんの実子・日比ななせさんが受け継ぐ。
1階店内には絵の具、バッグ、スケッチブックなど、同店の主力商品がぎっしりと並ぶ。中でも人気の商品はスケッチブックで、長辺が18センチから45センチまでの6種を6色で展開。映画などにも使われ、「月光荘のスケッチブックを小脇に抱えて歩く」のがはやった時代もあった。
地下1階は、封筒・便せん・はがきなど「手紙回り」の商品を並べる販売スペースと、オーガニックコーヒーを出す喫茶スペース、作品展示のスペースで構成。喫茶スペースでは「買ったはがきに自分の色を付けて、ここから誰かへ手紙を出してもらえれば」との思いからポストや切手なども用意する。
同店以外にも、「金春湯」のある金春ビル4階など、近隣で4つのギャラリーを運営。同店地下と金春ビルで8日から始まる公募展は、日比さんが「若い人が自分の作品を発表し、人に見られたり他人と比べてみたりする場になれば」との思いで開催。今年はプロからセミプロ、アマチュアまで約300組の平面、立体作品を一堂に紹介する。8月14日まで。
店には幼稚園児から90歳以上の人までが足を運び、趣味で絵を描く人、プロの画家、音楽家、小説家など客層は幅広い。「(創業95年だが)店は時代の動きを見ながら毎日変わっていくもの」と日比さん。「少しでも良質な画材を届け、クリエーティブな活動をしている全ての人にとって、『今日は月光荘に行ってみよう』と思ってもらえるような店であり続けたい」と話す。
営業時間は11時~19時。