俳人・鈴木真砂女さんが1957年(昭和32年)3月に始めた小料理屋「卯波」(中央区銀座1)が1月25日、51年の歴史を経て閉店した。
店舗面積8坪、カウンター9席と奥に小さい座敷が2つの「味のある」同店は、真砂女さんの孫の今田宗男さんが約10年前から後継者として切り盛りしてきた。子どものころから「祖母に会いに」同店に遊びにきていた宗男さんが、跡を継ぐことを決めたのは約11年前。「体が弱ってくる祖母を見て毎日店に立たなくても体の具合が良い時にだけ出られるように」という思いから店に立ち始めたという。「祖母の店を誰かが守っていかないといけないと思った」と真っすぐなまなざしで当時を振り返る。
料理に関しては素人だった宗男さんは、独学で「店でいろいろな料理を作り」「本を読み」「おいしいものを食べ」「京都へ行き」腕を磨いてきた。中でも、「しんじゃがの揚げ煮」(680円)や隣の魚屋から仕入れた「季節のさしみ」は客から好評だったという。
同店に「立ち退き」話が持ち上がったのは昨年7月。周辺の店舗からもその話を耳にしていた宗男さんは「とうとう来たか」という思いに。弁護士と検討した結果、昨年11月に「閉店する」という大きな決断を下した。真砂女さんの時代から通う客、俳句仲間など、常連客からは「続けてほしい」「残念だ」という多くの声を耳にする。
最終日となった25日、店内は満席の状態が続き店外で並ぶ人の姿が見られた。閉店後、27日にはガレージセールを行い、店の備品も処分した。長年使われてきた「おちょうし」や「おちょこ」が真っ先に売れたという。宗男さんは「今は多忙で毎日追われているが、店がなくなることは本当にさみしい」と胸の内を語る。今後の出店については未定だという。
再開発で大きな変貌を遂げる銀座1丁目界隈。同店跡地の開発については公表されていない。