1964年(昭和39年)に創業し「男の食堂」として銀座界隈に勤める会社員などに親しまれてきた「タイガー食堂」(中央区銀座1)が11月14日、44年の歴史に幕を閉じた。
同店は三代目・戸塚譲二さん(57)の祖父・松平さんが創業。松平さんの干支が寅であることから店名に「タイガー」と名付けた。出店のきっかけは、ビルオーナーと祖母がいとこ同士であったことに由来する。その後、父・嘉明さんが受け継ぎ、家族で力を合わせ切り盛りしてきたが、1974年(昭和49年)嘉明さんが他界。当時、23歳で結婚して子どももいた戸塚さんは「家庭を持っていたので本格的に三代目として継ぐことを決意した」と振り返る。
約20年前からビルオーナーからビル売却の打診は受けていた。当時は双方の意見が合わず先送りになっていたが、ビル2階に居を構えるオーナーも高齢となったことも関係し、近年、オーナーサイドから再度話が浮上した。「最初は戸惑った。しかし、これからの将来や妻の事も考えたらタイミング的に良いのではと思った」(戸塚さん)とオーナーの意向に添う形を選んだ。妻の笑子さんへ「文句も言わず黙って一緒に働いてくれた。これからはゆっくり休んでもらいたい」(同)と感謝の意を表す。
「祖父から教えてもらった」(同)味を引き継ぎ、メニューも開業当初からほとんど変わらなかった。人気メニューは、カレーシチュー、メンチカツ、フライもの(日替わり)、豚汁、ライス、お新香がセットになった日替わりランチ(680円)、さば塩定食、串カツなどで、「ボリュームが多いことから若い男性や恰幅(かっぷく)の良い女性などに好まれた」(同)。昔は「タクシーの運転手さんが深夜勤務を終え、昼から酒を飲み寝てしまったこともある」などのエピソードは絶えない。年季の入った店内に残されたいすやテーブルの形跡、壁に貼られたメニュー跡などから時代の足跡が浮かび上がる。
今後の出店予定はなく、戸塚さんは「やりたいことはたくさんある。タイガーののれん下げて、どこかで小さくカレーシチューやカツを売っているかも」と冗談を交えて話し、「結果的にハッピーエンドを迎えられて本当に良かった」とうなずく。一方、笑子さんは「岐阜に住む3人の孫との時間を持ちたい。岐阜と行ったり来たりの生活になる」と今後の新たな生活に期待を寄せる。