築地・波除稲荷(なみよけいなり)神社(中央区築地6)に5月17日、関東大震災を経て焼失していた「青竜(せいりゅう)」と「白虎(びゃっこ)」の頭像が新調され収められた。
築地エリアは江戸開府のころに日比谷の入り江から進められた埋め立て事業の一環として、1659年ごろに陸地化した。もともと堤防を築いても築いても波にさらわれて工事が難航したエリアだったが、同年のある夜、人々が光って海面に漂っている稲荷大神の御神体を発見。社殿を設けて祭って以降、波風はピタリと収まり工事が進んだといい、これが波除稲荷神社の起源とされる。
人々はこの神徳(しんとく)に驚き、「風を従える」虎、「雲を従える」竜、「一声で虎と龍を威伏(いふく)する」獅子を奉納。この3体の頭を担いで回ったのが「つきじ獅子祭」の始まりとされるが、1923(大正12)年の関東大震災を経て、地域住民が神社の獅子像に倣って作った夫婦獅子頭1対を残して全てが焼失した。
1983(昭和58)年、新聞で石川県の獅子頭彫刻師・知田清雲さんの存在を知って、念願だった再興事業に乗り出した波除神社。知田さんは翌年から獅子頭の制作を進め、1990年に黒檜(クロベ)1本を使って高さ2.4メートル、幅3.3メートル、重さ1トンの巨大な雄獅子頭「天井大獅子」を完成。2002年には高さ2.15メートル、幅2.5メートル、重さ0.7トンの雌獅子頭「お歯黒獅子」を彫り上げ、現在各獅子は本殿の両脇に構える「獅子殿」「摂社 弁財天社」に、それぞれ奉納される。
今回完成した竜と虎は、清雲さんと清雲さんの長男・善博さんが手掛けた。獅子頭は「慣れていた」が、竜と虎の頭は初めての経験。特に白虎を頭のみで表現するのは、「猫との違いが出しづらく苦労した」という。白銀のたてがみや眉を彫るなど工夫を凝らし、「17日に届いたものを見てみたら『虎』になっていた」と波除神社禰宜(ねぎ)の鈴木淑人(よしひと)さん。青竜は短ひげや真ちゅう製の長ひげ部分が金色で、威厳のある表情に仕上げた。
同日より本殿に持ち込み、焼失を免れた獅子頭一対の階下に「獅子に従える格好」で奉納する。竜には製作者名に清雲さんと『2代目清雲』の文字が記されている。「善博さんが初めて『2代目』の屋号を引き継いだ作品。竜の仕上がりを見て、清雲さんが義徳さんを『認めた』のでは」(鈴木さん)
竜と虎の再興は神社鎮座350周年記念事業の一環。6月にはこれを記念した「奉祝大祭」として、「つきじ獅子祭」も控える。「獅子祭は、今年は50年に1度の特別版として開催する。初めて天井大獅子、お歯黒獅子、みこしの3基全てを担いで築地の街を巡業する。次に同じ規模での祭りが行われるのは50年後で、今中心で活躍している人々はほとんど現場から離れているはず。自分たちの子どもや孫にまで、『あんなすごい祭があった』と語り継がれ誇りに思えるような祭りにしたい」という。
獅子祭は6月7日~10日に開催。3基の巡業は6月9日12時55分にスタートする。