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銀座・奥野ビルの一室で企画展-100歳まで住み続けた女性美容師にフォーカス

「ベッドに座ったり横になったりして、当時を身体的に感じてもらいたい」(黒多弘文さん)

「ベッドに座ったり横になったりして、当時を身体的に感じてもらいたい」(黒多弘文さん)

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 レトロな戦前建築として知られる奥野ビル(中央区銀座1)の一室で現在、戦前から同ビルに住んできた女性美容師・須田芳子さんにフォーカスした複合展「奥野ビル←→銀座アパート」が開催されている。

美容室時代の鏡もそのままに

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 奥野ビルは銀座アパートとして1932(昭和7)年に竣工。須田さんは間もなく3階306号室に入居し、「スダ美容室」を開業した。開戦、終戦、戦後の復興を経て、昭和60年代に美容室は廃業。須田さんはその後も住居として同室に住み続け、2008年冬に100歳を迎えて逝去した。

 「アンティークビルは各所にあるが、借主が変わらなかった例は珍しい」と、現在306号室を借り受ける有志代表の比留間雅人さん。もともと知り合いが居抜きで「押さえた」という同室には美容室時代の鏡やベッドの設置跡などがそのまま残され、「奥野ビルの歴史や一人の女性の歴史が蓄積されている」(比留間さん)。比留間さんは「朽ちていくのにあながわず、部屋を活用できないか」との思いで知り合いなどに声を掛け、現在はインスタレーション、写真などの作家や美術番組のディレクターなど10人が家賃を負担し、同室を借り受けている。

 当初は要望があった時など以外は「閉めていることも多かった」(借主メンバーの黒多弘文さん)が、今年から同室を多方面から紹介するシリーズ企画展を主催。6月には「奥野ビル306号室は美容室でした。」と題して奥野ビルや須田さんの来歴などを紹介する資料を紹介し、8月には「美容」をテーマに作品展示。実際に室内でヘアーカットを行うイベントなども実施し、好評を博したという。

 第3弾となる今回は、306号室の「建築としての側面」にフォーカスした。室内には当時のサイズで製作したベッドを置き、ブラウン管仕様のテレビで「奥野ビルで生まれ育った人」「昭和40年代から現在までビルに事務所を構えている人」「スダ美容室のかつての常連客」の3人のインタビューを上映する。

 10月30日には「中央区まるごとミュージアム」の一環として、「奥野ビルに詳しい」というカメラマンのライル(宏)サクソンさんが率いる「奥野ビルツアー」、美容室白山によるヘアカット、芸者を招いた「唄・三味線」のライブを展開。黒多さんは「『現状維持』が第一目標なので展示には制約も多い。ぎりぎりの所で面白いことを見つけていきたい」と話す。

 現在のメンバーの家賃負担は、1人月1.5万円。比留間さんは「こういう法外な会費で運営するのはもう限界かな」との考えもあったというが、シリーズ企画展を通じて306号室に興味を持つ人が増えたことで考え直したという。「プロジェクトは、異業種の人々が集まって一つのことをやるので得がたい体験になった。今後については1年ごとに考えていきたい。もしメンバーが20人程度まで増えれば、個人負担を下げられるのだが…」

 展示時間は12時~19時。10月30日まで。

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